先日「京都に 魔鏡 をつくる職人さんがいるらしい」という噂を耳に。
ま、まきょう?
22年間生きてきて1度も聞いたことがない単語にポカーンとしていると、
どうやらそれは 「そこに見えるはずのない何かが映ってしまう鏡」 らしい。
「見えないはずの何かが…」
「映ってしまう…」
ひえええええええ!
完全にそっち系のやつではないですか。そうですよね!怖い系のやつですよね!
(名前が「魔鏡」って。「魔」の字が入っているだけですでに何か嫌な予感がしていたよ)
でも、ちょっと気になったらどこまでも気になってしまうモノ。
こういった霊的なモノや怖い都市伝説のようなネタは、調べても絶対いい思いはしないと分かっていても、ついついググってしまうのが悪い癖。


なんか思ってたのと違う!?
安倍首相がローマ法王に贈った?
古代の鏡?
卑弥呼?
想像していた安っぽい心霊現象や都市伝説とは真反対で、なにやら極めて価値のある崇高な気配が漂っている。
「魔鏡」とは一体何なんだ!?
ググって出てきたページに、何やらいろいろと情報は載っているものの、凡人にはいまいち理解できない。
ということで、魔鏡を作っている職人さんのもとを訪ねてきました。
世界でたった1人、魔鏡を作る職人さんが京都にいた
こちらが魔鏡をつくる職人さんの工房。
京都駅から徒歩20分ほどの場所にある山本合金製鉄所。
年季の入った木製の扉が「職人さんの工房」という感じ。
45年以上前からあるらしい。
工房のなかにお邪魔すると、待っていてくれたのは五代目の鏡師、山本晃久さん。
いま魔鏡をつくる技術を受け継いでいる世界でたった一人の職人さん。
魔鏡って何?
ここが山本さんが魔鏡をつくっている仕事場。
無造作に転がっているいくつかの円盤らしきモノが噂の魔鏡?
そして無数の工具や道具。
右下に置かれた全然青くない「BLUE」も気になるところですが、
早速一番聞きたかった質問。
―魔鏡って何ですか?
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「これが魔鏡です」 |
ん?
なんか思っていたのと違う…
「 見えるはずのないものが映る 」とか
「 古代の鏡 」とか
「 ローマ法王に贈った 」とかいうから、何かスゴイモノが出てくるのかと思いきや…
(それ普通の綺麗な円形の鏡ですよね?)
と心の中で呟きつつ、ポカーンとしていると、
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「これにこうやって光をあてて」 |
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「反射させると、映るんですよ」 |
ん!?
もう一度先ほどの鏡の表面。
表面は何も模様のない、普通の綺麗は鏡なのに、その鏡面に光を反射させて投影するとそこに模様が映っている。
(左:投影したもの、右上:表面、右下:裏面)
実はこれ、映っているのは裏面の模様。
表面は普通の鏡で、そこに光を反射させて投影すると、なぜ裏面の模様が映るのか。
仕組みはこの後説明するとして、この不思議な現象を起こす鏡が「魔鏡」であり、この不思議な現象を起こすから「魔鏡」と呼ばれるわけであります。
なにはともあれ、
魔鏡スゴイ!
「普通の綺麗な円形の鏡」とか言ってすいませんでした。
「魔鏡現象」が起こる仕組み
(投影する場所と鏡の距離をきちんと定めるとこんな風にくっきりと綺麗に像が映る)
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「仕組みでいうと、ここがこうなっていて……削っていくうちにここが薄いのでたわんでいって…金属の特性で……光を散らすんですね……で、模様がないところは光を散らさないので、光が強く跳ね返るというわけです。」 |
なるほど!さっぱりわかりません!
この後詳しく教えていただきなんとか理解できた(つもり)なので、その仕組みをすごく簡単に説明すると、
- そもそも鏡は青銅の金属の表面を磨いて作るもので、魔鏡の場合は鏡の背面に模様が入った青銅を使っている。
- 鏡面を磨き続けて極限まで薄くなると、表面にかすかに凹凸ができる。
- これは裏面に模様があるために、極端に薄くなった場所と分厚いままの場所ができるのが原因。金属の特性として、薄くなった部分は盛り上がってくるので凹凸ができる。
- この表面のかすかな凹凸により、光の反射具合が変わるので像が映る。
(出典:http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/180987.html)
簡単に説明すると言っておきながら長くなってしまいましたが、この簡単には理解できない仕組みこそが「魔鏡」が「魔鏡」と言われるゆえんなのでしょう。
(嘘です、私の説明力不足。)
聞いてみたかったことを聞いてみる
-山本さん、聞いてみたいことがたくさんあるので聞いてもいいですか?
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「どうぞ!」 |
―ネットで調べていたら、「隠れキリシタン」が使っていた魔鏡があるって書いてありました
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「これがキリシタン魔鏡です。日本で昔キリスト教が弾圧されていたときに、隠れキリシタンが密かに使っていたと言われています」 |
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「鏡の裏面にキリストの模様があるので、光を反射させるとキリストの像が投影されるわけですが、この鏡は二重構造になっていて、裏面にまた別の模様を覆いかぶせて隠しているんです」 |
-なるほど、キリスト関連のものを持っているだけでアウトだったから隠す必要があったということですか。ということは魔鏡は他にもいろいろと秘密を隠せるわけですね?
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「そうですよ、パスワードとか」 |
-『ダヴィンチコード』とか『天使と悪魔』みたいな映画に秘密の暗号として出てきそう
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「そうそう、アニメとかにも出てきます。コナンとか」 |
-ミステリアスでロマンがありますね。そもそも魔鏡は、いつ作られたんですか?
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「それがね、魔鏡がスタートしたのがいつなのか、はっきりとはわかっていないんです。キリシタン魔鏡は有名な話ですが、それより前からあったでしょうね。 もしかしたら卑弥呼の時代からあったのではないかとも言われています」 |
―どういう意図で作られたんですか?
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「個人的には、たまたまできたんじゃないかなと。裏面に模様のある鏡を何十年も使い続けて、表面が曇るたびに磨いていく。 そうしていくうちにだんだん薄くなり、たまたま魔鏡現象が起きたということも考えられます」 |
-どのくらい薄くなると魔鏡現象が起きるんですか?
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「1ミリ。私はもともと3ミリのものを約1ミリになるまで磨いて薄くしてます。 大きさにもよるけど、磨くだけの作業で、だいたい1か月くらいかかります」 |
-1か月磨き続ける…僕みたいな人間には無理です
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「ひたすら磨き続けるので、僧侶のような心を持ってないとできないです。研ぎ澄ました心でもくもくと磨き続けるという(笑)」 |
-山本さんがこの仕事をはじめたきっかけは?
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「家業だったので。大学時代に飲食店でバイトをしていたときに、魔鏡を作っていた父から、50円多く時給出してあげるから手伝いに来いと言われて、手伝い始めたのがきっかけです」 |
―なるほど、時給+50円にまんまと釣られたわけですね
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「はい(笑) それから徐々に面白いなと感じ始めて、就職活動をするタイミングで、家の仕事よりもやりたい仕事が見つからなかったので、家の仕事を継ぎたいと父に伝えました」 |
-今は山本さんしか魔鏡をつくれる職人さんがいないんですよね?当時から技術を引き継いでいかないといけないという想いはあったんですか?
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「当時は全然なかったですね。考えもしなかったです」 |
-そうだったんですね
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「今は、もっと広めていきたいっていう想いがあります。僕が作っているのは神具なので、一般の方からすると普通は買うという選択肢がないですよね。 だからこういう技術があることも、こういう仕事をしている人がいるということもなかなか知られない。そういう人達に知ってもらいたいという想いで、身に着けられるモノもや身近に感じてもらえるモノなんかも作っています。 今の時代、つくることだけではだめで、発信する努力もしないとないといけないですから」 |
-もし今、作ることに専念できるとしたら、どんなことをしてみたいですか?
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「まずは技術をもっと高めたいですね。本当は、ワークショップをしたり、SNSで発信したりしている時間にもっと技術を高められるはずですから。 世代によって職人の役割も違ってくるとは思うので、仕方ない部分ではありますが、次の世代にはモノづくりに没頭できる環境をつくってあげたいなという想いがあります」 |
この後も、魔鏡づくりの仕事を継ぎたいと言ってくれた親子の話や、山本さんが技術提供してつくったアートの話、鏡の手入れの話…
今まで全然知らなかった魔鏡のことや、山本さんの活動について教えてもらい、鏡に秘められたミステリアスなパワーに好奇心がとまらないのでありました。